Hachural-Life

神戸市灘区の初心者歓迎の爬虫類専門店 | 生体販売&生体機材の買取引取

【第2部】足し算の論理:除菌を越える「共生」の防衛戦略|【土を飼う】ティースプーン1つからの生態系

【第2部】足し算の論理:除菌を越える「共生」の防衛戦略|【土を飼う】ティースプーン1つからの生態系

第1部では、私たちが良かれと思って行っている「清潔(引き算)」が、皮肉にも病原菌にとってのパラダイスを作っているという仮定を話しました。「殺しても、殺しても、強くなって、また現れる」 この終わりのないモグラ叩きに疲れ果てている方は少なくないと思います。逆に見えない世界での話なので気付かない方も多いだろうとも思います。

では、どうすればこのループから抜け出せるのか。その答えは私たちが自分自身の健康管理で当たり前に行っている「足し算の思考」にあると考えています。

1. 「除菌」が招く、生物学的な白紙状態

前提として自然界に「完全な無菌」は存在しないということです。

除菌スプレーでケージ内を除菌した瞬間、そこには一時的な「空白(無菌)」が生まれます。でも自然界はこの空白を極端に嫌い空白あれば、必ず何かがそこを埋めようとします。

この時、一番乗りするのは誰か。 それは、第1部で触れたような、乾燥に強く、増殖スピードも異常に速く、過酷な環境でも生き残れる「強靭な悪玉菌」たちです。「引き算」の管理は、例えるなら漂白した白いTシャツでカレーうどんを食べるよう感じかなと思っています。
漂白した白いTシャツ(一時的に無菌のケージ)にカレーうどんの跳ねた汁(悪玉菌)みたいなイメージです。跳ねた瞬間=悪玉菌が入った瞬間・・・終わった感がありますよね。そう、一滴も飛ばさずに食べることなど、不可能なのです。更には悪玉菌は増殖します。漂白して綺麗なTシャツに飛ばしたカレーうどんの汁が染みた範囲を無限に増やして行くのです。

 一滴でも飛べば即座に台無しになるような、常にハラハラとした『病原菌にとって侵入しやすい環境』を、自ら作ってしまっているかもしれません。

2. 私たちはなぜ、お腹の調子が悪くなるとヨーグルトを食べるのか

ここで、視点を私たちの身体に移してみましょう。私たちは食中毒を恐れて、胃腸の中をアルコール消毒しようとは考えません。むしろ、ヨーグルトなどで乳酸菌やビフィズス菌といった「善玉菌」を積極的に摂取します。
腸内という限られたスペースの中に、あらかじめ「味方」を隙間なく並べておくことの方が良いと知っているからです。 

爬虫類のケージ内を「一つの巨大な腸内」と置き換えます。除菌スプレーを振り撒くのは、アルコールで腸内洗浄を繰り返して善玉菌まで除菌している状況かなと思います。どっちの菌が多いかなんて目では見えませんが、善玉菌まで殺していると考えると本末転倒ですよね。目指すべきは、ケージという閉鎖空間に「強固な常在菌のバリア」を築き悪玉菌を抑えることだと思います。

3. 椅子取りゲームの心理学:競合的排除(拮抗作用)

生物学の世界には「競合的排除」という言葉があります。 簡単に言えば、ケージの中を100個の椅子がある部屋だと想像してください。

  • 引き算の飼育(除菌): 100個の椅子をすべて空席にする(除菌)。次に窓から入ってきた「悪い菌」が100個すべての椅子を独占し、やりたい放題に増殖する。
    *ここで言う悪い菌とは生体や手足に付着した悪玉菌のことです。(塵埃感染も含む)
  • 足し算の飼育: あらかじめ、私たちが信頼できる「性格の良いガードマン(善玉菌)」を100個の椅子すべてに座らせておく。

もし、この「ガードマンが座っている部屋」に、病原菌が1つ侵入してきたらどうなるでしょうか。 病原菌は座る椅子を探しますが、どこにも空きはありません。

それどころか、ガードマンたちは自分の椅子を守り増殖するために、病原菌が食べようとしていたエサ(排泄物などの有機物)を先に平らげます。さらには病原菌が嫌がる環境(抗菌物質の放出など)を作り出してくれます。 これが「足し算」の有利性だと考えています。

敵を殺すエネルギーを使うのではなく、「敵が生きるためのリソースをすべて奪い、居場所をなくす」。この兵糧攻めこそが、自然界で最もスマートな防衛戦略なのです。

【和尚の深掘り】似て非なる「細菌」と「原虫」の戦い

ここで少し専門的な話を補足します。私たちが「バイキン」と一括りにしているものには、実は「細菌(納豆菌・サルモネラなど)」「原虫(クリプト・コクシジウムなど)」という、全く別次元の生き物が混ざっています。

項目細菌(スピード型の雑草)原虫(タフなエイリアン)
大きさ極小(ミクロの世界)細菌より遥かに大きく複雑
増え方1人が2人に分裂。とにかく速い!卵(オーシスト)を作り、体外で熟成する
弱点熱や一部の除菌剤に弱い薬剤がほぼ効かない。**「熱」か「乾燥」**のみ

「種類が違うのに、なぜ細菌である納豆菌が、タフな原虫に効くのか?」

疑問に思う方もいるでしょう。その答えは、直接殺すのではなく**「住みにくい環境を徹底的に作り上げる」**ことにあります。

  1. 物理的排除(椅子取りゲーム): 圧倒的な増殖スピードを持つ納豆菌が、原虫が「熟成」するために必要な場所と栄養を先にすべて奪い取ります。
  2. 化学的バリア(サーファクチン): 納豆菌は「サーファクチン」という天然の石鹸成分を放出します。これが、原虫が卵から出てきた瞬間の無防備な状態を直撃します。
  3. 聖域の破壊(天地返し): 湿った暗い場所を好む原虫に対し、土を動かし納豆菌のバリアでコーティングすることで、ケージ内から彼らの「隠れ家」を消し去ります。

つまり、納豆菌で戦うということは、敵を力でねじ伏せるのではなく、ケージ全体を「病原菌が生き残れない要塞」に作り変えるということなのです。

4. 静的な「薬剤」 vs 動的な「生命」

除菌スプレーや薬剤の最大のアキレス腱は、それが「静的」であることです。スプレーは吹きかけた数分間が効果のピークであり、乾いた瞬間から除菌としての防御力はゼロに向かってカウントダウンを始めます。
一方で、善玉菌による防衛は「動的」です。 彼らは生きています。生体と同じ28℃という環境下で、彼らもまた24時間、365日、休むことなく分裂と増殖を繰り返しています。 生体が糞をすれば、それをエサにして善玉菌がさらに勢力を強める。湿度が上がれば、それに合わせて活動を活発化させる。 環境の変化に柔軟に対応し、自律的に防衛網を補修し続ける「生きたガードマン」。ヴィラン(悪玉菌)とヒーロー(善玉菌)、同じ環境下で増えるとしたら、どちらがいいでしょうか?

数分の効果しか持たない化学薬品と、自己増殖し続ける生命のネットワーク。どちらが管理コストが低く、かつ強固な防衛線であるかは、論理的に考えれば明白です。

5. 「土を飼う」とは、インフラを整備すること

では、その善玉菌たちはどこに住むのでしょうか。 

ツルツルのキッチンペーパーの上では、彼らもまた定着することができません。次から次にメンテする度に散布や塗布をしないといけません。白紙地帯でヒーローとヴィランの椅子取りが始まります。椅子取りを開始させないためには彼らにも「家」や「拠点」が必要です。 その拠点こそが、私は「土」だと考えています。土を床材として使う中でも特に重要なポイントが「団粒構造」という仕組みです。

土を飼うということは、単に床材を敷くということではありません。ケージの中に、目に見えない無数の「菌のマンション(インフラ)」を作り、そこに最強のガードマンたちを住まわせ、定着させることなのです。

次章では、この「空白地帯」に送り込むべき我々日本人にとって馴染み深く、かつ世界最強クラスの生存戦略を持つ「あるガードマン」の正体についてお話したいと思います。

第3部:1粒に秘められた、世界最強クラスの生存戦略|【土を飼う】ティースプーン1つからの生態系


📚 参考文献・関連エビデンス

🌏 海外の最新知見(畜産・微生物学)

🇯🇵 国内の研究・公的資料(原生動物・感染症学)

🔗 厚生労働省:クリプトスポリジウムの環境耐性と増殖サイクル(PDF)
(除菌後の隙を突いて急速増殖する原虫の生存戦略を裏付ける公的資料)

🔗 原生動物における競争的排除則:同一ニッチでの優位種定着の原理
(爬虫類の原虫にも応用可能な「椅子取りゲーム」の生物学的基礎を解説した国内文献)

🔗 科研費報告:輸入爬虫類における再汚染課題と外来感染症の疫学研究
除菌された「空白地帯」でキャリア個体から再汚染が広がる、ショップ・飼育現場の現実を示すデータ)


もしこの記事が、皆様の飼育を考えるきっかけになったのであれば、これほど嬉しいことはありません。 もし「面白かったで、和尚!」と応援いただけるなら、こちらからスタバの1杯でも凝ってもらえると、次回の記事を書く強力なエネルギーになります。

[osho_coffee]


他のくだらない話はブログカードのリンクから見れます👍

080-5326-7041